こんにちは、獣医師まるです。
今回は、「うちの子、なんとなく元気がない気がする」というときに役立つ、動物の体温・心拍数・呼吸数についてのお話です。
これらは獣医療の現場では「TPR 」と呼ばれ、動物の体調を客観的に知るためのとても大切なサインなのです。
「なんか変かも?」と思ったときに大切なこと
ペットを毎日見ている飼い主さんだからこそ気づける、「なんかいつもと違う」という小さな変化。
この違和感はとても大切な感覚です。

何となく元気がない気がするけど、特徴的な症状はないんだよなぁ。
こんな時、どこがどう悪いのかわからなくて不安になりますよね。
そんな時こそ、体温・心拍・呼吸のような「体のサイン」を見ることで、漠然とした不安を具体的な「情報」に変えることができます。
動物病院で体調を判断するときに使う3つの基本データ(TPR)
TPRとは、以下の3つの略です。
- T(Temperature)=体温
- P(Pulse)=心拍数
- R(Respiration)=呼吸数
この3つは、体調不良の動物で最初に確認する基本のデータです。
医療の現場では「何となく元気がない」というあいまいな情報を、誰にでも伝わる目にみえる情報にする必要があります。
これらの情報が体調を知るうえでの出発点になるのです。

正常値
犬猫
体温:38.0〜39.2℃
心拍数:犬は60〜120回/分、猫は120〜180回/分
呼吸数:犬は10〜30回/分、猫は20〜40回/分
牛
体温:37.8〜39.2℃
心拍数:60〜72回/分
呼吸数:20〜30回/分
動物病院ではどうやってTPRを測っているの?

動物の体温や心拍数、呼吸数ってどうやって測るんだろう?
TPRを正確に測るのはプロの手が必要なこともありますが、ご家庭でも「変化」に気づくポイントはあるんです。
まずは、動物病院ではどのようにTPRを測っているのかお教えします。
- 体温:動物専用の体温計をお尻に入れて測定します。
先端がぐにゃっと曲がる、柔らかい素材でできています。 - 心拍数:聴診器で心臓の音を聞きながら、1分間に何回ドクドクするかを数えます。
- 呼吸数:胸の動きを見て、1分間に何回呼吸をしているかを数えます。
体温計の先には使い捨てのカバーをつけて使います。
動物は人のように体温計をおとなしく脇に挟んでくれたり、口にくわえたりはしてくれません。
なぜお尻に刺すかというと、直腸の中の温度は正確な体温に近いからです。
多くのワンちゃんや猫ちゃんはちょっと嫌がるので、「ごめんね、すぐ終わるからね」と思いながらお尻に入れています。
動物病院に連れてこられたペットたちや、獣医のことを覚えている牛さんたち。
どんな動物でも獣医の前では、緊張や興奮で落ち着かないことが多いです。
するとTPRを正確に測れないこともしばしば。
そんな時、飼い主さんの気づきが頼りになります!
TPRは、数値そのものを見るだけでなく、「いつもと比べてどうか」がとても重要です。
特に心疾患や呼吸器病がある子、また入院中の子の体調の微妙な変化を見つけるのに役立ちます。
TPRで何がわかるの?
TPRを測ることでわかることをざっくりと挙げてみます。
- 体温が高い=発熱、炎症、感染など。
- 体温が低い=ショック状態、低体温症など。
- 心拍が速い=痛み、貧血、発熱など。
- 呼吸が荒い=呼吸器の異常、心臓の異常など。
運動後や興奮時にも体温が上がったり、呼吸、心拍が速くなったりします。
動物の種類によっては体調不良を隠すのが得意だったりします。
見かけ上元気でも、TPRはごまかせません。
隠れた不調を見つけるのにとても重要な情報なのです。
また、現場では生死の間をさまようような緊急の時にも、TPRの変化は必ずチェックします。
「いつもと違う」に気づくコツ(自宅では測定できなくてもOK!)

体温、心拍数、呼吸数って自宅でも測れるのかな?
正確な数値を測るのは難しいかもしれません。
まず動物用の体温計なんて、ほとんどのご家庭にはないと思います。
そして心拍数も聴診器がないとなかなか測定できないです。
でも大丈夫!
難しい測定ができなくても、ちょっとした日々の観察と、手で触れる習慣が大切です。
体温:触って感じる
耳の内側やお腹、わきの下を触って、「いつもより熱い or 冷たい」と感じたら体温に変化があるかもしれません。
普段からよく触れ合って、体温の変化に気づけるようにしてあげましょう。
心拍:胸に手を当ててみる
胸(前足の付け根の後ろあたり)にそっと手を当ててみると、「ドクドク」と感じる鼓動があります。
正常だと、ちょっとわかりにくいかもしれません。
もしも心臓病を抱えていると、明らかに強い拍動を手で感じられたりします。
呼吸:様子を見る
寝ているときに胸の上下の動きを観察してみてください。
呼吸のスピード、深さ、呼吸音が見るべきポイントです。
速い、浅い、苦しそうに見えるなど、呼吸の様子に違和感があれば受診をおすすめします。
特に呼吸器や心臓の病気がある子は、呼吸数も普段から意識して見ておくと安心です。
正確な数でなくても、大体のリズムを普段から意識して見ておくことで、小さな異変に気づけるかもしれません。

まとめ:体調の変化は、いつもの“普通”から気づける
TPRは、動物の体調を知るための「客観的な物差し」です。
でも、難しく考えすぎなくて大丈夫。
毎日のスキンシップの中で、普段の様子や手の感触を覚えておくだけでも十分役に立ちます。
飼い主さんの観察力が病気の早期発見の頼りになります。
「いつもと違う」と感じたら、迷わず動物病院へ相談してくださいね!
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